貧乏な男が、金持ち生活をした末路(7)

男は遠い国での1320万円生活にすっかり気分をよくしていた。

その国のひとたちは、貧富の差は日本よりも断然はげしいので、金持ちはケタ違いなものの、
大多数の人は、月々7万円くらい、年にして84万円くらいが平均だ。

そこへきて、1320万円生活というのは、平均の15,16倍ぐらいの収入なので、
日本の平均年収が400万円というから、その国の目線からすると、日本でいえば、
6000万円くらいである。

男は日本ではもちろん、税とか社会保険など源泉徴収されると、口座に入ってくるお金は
13,4万円そこそこといった具合だし、新入社員とさほど変わらないから、年収はボーナスを
入れても、200万円くらいだったのではないだろうか。
そこから家賃が70万円くらいかかるし、通勤で事実上所有を強制されている車のローンとか、
保険その他諸経費を除くと、いくらも残らない苦しい生活ぶりである。
それにくらべると、暮らし向きは各段によくなった、と言えるばかりではなく、
サラリーマンであれば、初老と言える年齢で、大企業の役員にでもならない限り、
超絶一流企業でも2000万円くらいが上限というところで、6000万円レベルというのは、
サラリーマンとしては雲の上の生活ということになる。

2000万円として源泉徴収されると、3、4割引かれて、現金としては1300万円とか
になるのだろうか。じゃあこれで、メイドや運転手をつけてすべて消費するかというと、
そんな浪費家なサラリーマンはいないだろう。

そんな暮らしにすっかりと気分をよくしていた、というのは、男に芽生えた選民意識のことである。

想像してみほしい。6000万円の年収があるとして、世の中はもちろんそのまま平均年収400万円だ。
富と権力の象徴のような摩天楼に住んで、家事なんて一個もやらなくていい。
一歩外にでると、ちっこい車やバスが走っているなか、破格の高級車で移動するわけです。

そう、通勤ということについては、始業近くの時間になると、バスでぞろぞろ通勤してくる社員を横目に、
黒塗りの車でエントランスに横付けするのです。そしてその後部座席から出てくるのは、弱冠20代の若者で、
日本では、なにもとりえのない、なにができるわけでもない、世間から目を向けられることもない、
たんなる男なのである。