貧乏な男が、金持ち生活をした末路(5)

ハゲは男を夕方にゴルフ場へ拉致した。

土曜日曜の話ではない。どまんなかの水曜日である。平日は当然、出勤をする義務がある。会社員なんだから。

仕事をサボってゴルフした、というヤンキー行為のことではない。仕事を終えて、正確には仕事を5時に、無理やり終わったことにして、ゴルフに繰り出したのだ。4時半ごろからソワソワし始めて、5時きっかりにベルダッシュできるようにいろいろと手配をはじめ、首尾よく運転手を車寄せにつけさせておいて、ハゲは男をしたがえて高級SUVへと滑りこんだ。

遠い国は、都心のなかこそ多少は小ぎれいにしているが、一歩外側へ抜けると、原野に毛が生えたようなところである。木も草も、もしゃもしゃ生えたい放題の原っぱに舗装道路が虫食い跡みたいに伸びている、そんなところを高級SUVが通っていく。しばらくすると、とってつけたような、白亜の建物が忽然と現れる。シムシティーにたとえると、一面森のマップに、いきなり瀟洒なゲストハウスつきのゴルフ場を設置してみた、そんな感じである。

ハゲはゴルフバッグを下ろすそぶりさえみせず、運転手にアゴで車のトランクを指し示すやいなや、ロッカールームへと直行すると、まるでベテランストリッパーのように瞬く間にパンツ一丁になったかと思えば、すばやくゴルフウェアを装着した。軽やかにロッカーを施錠して、高っかそうなブランド長ザイフをもてあそびながら、足早にコースへと向かった。男といえば、これからはじまる気の進まない時間外業務で、いったい何回鉄の棒を振り回してタマをアナに入れればよいのか、それも18回とか、気が遠くなりめまいを覚えながら、脱ぎたくない靴下に四苦八苦格闘しているところだった。

てめぇ遅ぇよ!という罵声とともに男がコースへ出ると、すでにゴルフバックはカートへ搭載され、キャディのオネイさんふたりがスタート地点脇に談笑している横で、とっくにティーにタマを乗せたハゲがブンブン素振りをしながら、照明のスポットライトで頭皮をテカらせている。ハゲは純粋にゴルフをやりたいようであり、男のプレーには1ミリも注意を払っていなかったのが不幸中の幸いで、男はグリーンに乗せる前後を除いては、打ったタマを再び打つことはなく、ハゲが滞りなく進めるためだけに、並走しているフリを装うことに注力することができた。

男はゴルフなんてものはよく知らないが、3つか4つホールを終えると、あづまやみたいな休憩所があった。最初のあづまやで、ハゲは調子いいわー、とか上機嫌で、まるでラーメン屋でタダの水を飲むかのような無意識さをもってジョッキのビールを飲みほしたが、18ホールが終わるまで、それを4,5回くりかえした。男がこの平日のナイター・ゴルフで気に入ったことは、この無意識ビールと、高級スパかと思うような設備のととのったシャワールームだ。酔っ払いながら、シャワーをあびて、さっぱりとしてメシでも食いにいくわけである。そこにゴルフが介在することが男にはまったく余計なものであったが、それまで、朝一深夜までデスクに向かい、ようやく帰宅して、いち早く寝るためだけに無心でシャワーして飯くって歯を磨く作業に比べると、ずいぶん優雅なことである。

(つづく)