貧乏な男が、金持ち生活をした末路(4)

ハゲは、遠い国で男を連れまわした。

一日の仕事が終わると、メシ食おうか買い物にいくぞとか何かにつけて男を連行した。
男にとってはありがたかったといえばそうだった。不案内な土地で下調べもいらずに食い物にありつけるし、なにより行くところ行くところが、ちょっと高級なうえ、支払いはハゲの財布から出た。さすが1320万円の生活をしていると、ハゲでも気前がいい。

どこに行くのか、どんな感じなのか?

その国にしてはムダに高い寿司屋では、ウニとかカニ、大トロなど高いネタがふんだんにならんだ握りの盛りや、
ブリのカマ、和牛とか馬の刺身を息を吸って吐くかのように頼む。新鮮なシーザーサラダの大皿も、頼んだだけでほとんど箸をつけない。不摂生はよくないという考えをこれで相殺するとか、オーダーとる人に違和感を与えたくない、とかそういうことだろう。焼肉屋ではカルビやらロースも、特上だけを持ってこさせる。特上でサシが豊富だから、カルビもロースも見分けがつかない。摩天楼の頂上にあるバーで、小腹がすいたとかで、とんでもない値段を払ってサンドイッチ食うとか、平日にもかかわらず打ちっぱなしに行って、そこでビールのつまみにエビチリ、みたいな感じだ。男の世界観の範囲内では、打ちっぱなしながらメシなんて行動は斬新であり、エビチリなんて頼むくらいなら同じ値段でチャーハンと唐揚げと餃子を頼みたいところだ。それ以上に、ドライバーが運転するから、平日休日行く先々で迷わずビールを飲むというのは、もう特権階級の所業といっていいだろう。

ハゲが女性を連れてきたこともあった。なにやらスポーツサークルで知り合ったとかいう30そこそこの日本人だ。かの地で個人相手に投資信託などの金融商品を販売する代理店で勤務しているとかで、男はそのカモとして引き合わされたわけだが、このおばさんもこのおばさんでバブっている雰囲気でハゲと同類だった。なんやら高級なイタリアレストランでお互い紹介しあうような会話をしていたような気がするが、男の記憶に残っているのは、やたらでかい赤ワイングラスとあばら骨が何本も突き出ている羊の肉、やたらデカい原木の生ハムだ。おいおい、こういうのは、飲食店の宣材写真の中の話で、実際に行って食べるのは、なんこつのからあげと、フライドポテトだろ?カリカリしたものをサクサク食いたいんだよ。ふざけるな。

ハゲの家は、都心にある白亜の高級コンドミニアムだった。プールの底にあるスポットライトで、黄色とかピンクとかありえない水の色をしている。敷地には中庭があり、こんなところになくてもいいだろうというドアのない門から、迎賓館みたいなフェンスが両側に伸び、手入れを怠るとすぐ汚くなりそうなツタがムダなくすっきりと絡まっている。生まれ落ちた瞬間から余計なものが一切ない投資物件たる格安借家住まいの男には、どこの国のお話でしょうという感想だった。そのとおり遠い国のことなのだが、悲しいかな、愚昧な男にはそう表現するほかボキャブラリーがなかった。

 

(つづく)