貧乏な男が、金持ち生活をした末路

なんのうしろだても、バックボーンもなく、できることはなにも無い男。
イケメンでも、頭がよくも、面白い話ができるでもない男。

気づいたら会社員をやってて、会社があるからいくばくかのカネを得ている、そんな男。

そんな男だけど、なんかうまいこと、カネ持ちになれかいかなー、モテないかなー、
働きたくないなー、ということを妄想し、それをどうにも諦められない、そういう男。


そういう、どこにでもいる男にあるとき、金持ち生活が降って涌くことが、世の中には起こる。


海外転勤である。


そうですかと、男はその準備をしていると、遠い国ではなんか、日本では考えられないような
ゴージャスな金持ち生活ができるらしいことが、分かった。

もちろん、男は歓喜した。そんなゴージャスな生活を毎日のように妄想していたが、
ごく短期間に限って試してようと思っても、できることはないと、本当はあきらめていた。

豪華なプールつきコンドミニアム、メイドサービス、自分では買えない車と専属ドライバー、
遠い国の、その首都の、センター・オブ・ジ・都心でのゴージャス生活。
それがしかも、自分のサイフが痛まずに。

日本でいえば、六本木とか青山とか、港区住民になるようなものだ。


平々凡々な小市民の男は、そんな生活に入ろうとしていた時期、あるいは
そんな生活を始めるやいなや、しばらく、常に足の裏が接地していないような、
世界が自分を歓迎しているような、心地よく、晴れ晴れとした気分に包まれながら、
これは現実で起こっていることだと、確認しなければならないと思い、毎日なんども
鏡で顔を確認した。Facebookを立ち上げ、同僚や、いまは会うこともない旧知の人間が、
これまでと同じように暮らしているかをチェックした。
男の思惑どおり、彼らは自分がこれまで生きていた、これまで通りの出来事が続いていく日常を
変わることなく過ごしている。

俺が、この俺が、変わったのだ。

つづく